- 2018年12月10日
いわき市の通信制高校なら 翔洋学園 創作部 生徒作品紹介 その②
皆さん,こんにちは。
いわき学習センターの長久保です。
今週のブログも
前回の作品(小説 )の第二回を掲載します。
どうぞ,ご覧ください。
以下,生徒作品より
「時計」
翔洋学園高等学校 いわき学習センター
2年 反町 明莉
第二回
多少の気恥ずかしさに、声がした方にぎこちなく顔を向ける。
ドアをくぐって左側に、ドアの木と同じダークブラウンの色をしたカウンターがあった。
そこに、黒のベストを着た男性が立っていた。いくつぐらいだろう。三十代と言われればそうかもしれないが、二十代と言われても納得できる。
でも、男性のまとう空気は四十代と言ってもいい程重みがあるし。いやでも老け顔の十代という線も・・・。年齢を推測するのは苦手だ。
そもそも、店の中は電気がついていないから薄暗い。
ガラスから入る明かりもあるけど、暗さを強調する役割しか果たしていない。・・・そんな状況で推測もなにもないか。
しゃんと背筋を伸ばして立つ男性に、この場所のことを尋ねようと口を開く。
「ここは、一体?時計屋さん・・・ですか?」
「いいえ。時計屋ではありません。」
首を横に振る男性の近くへ、少し進んだ。
店じゃないのなら、どうしてこんなに時計があるんだろう。コレクションか?
「ここにある時計は、売り物ではないのです。これらは全て、私が『誰か』から預かったものなのですよ。
預け主の方が取りに来られるまで、こうしてこの場に飾っておくことにしているのです。」
うるさくてすみません。と申し訳なさそうに謝罪する男性の背後にも、ずらりと時計が並べかけられている。
「それぞれ示す時間が違うのは、預かった時から時を刻んでいるため。『現在』の『正確な時刻』をさしているものは、滅多にありません。」
話を聞きながら、僕は一つの時計にすーっと目が行った。
それは針が動いていない、止まった時計だった。
「あの」
口を衝いて出た言葉に、僕は文字通り固まった。
「時計を受け取らせてください。」
・・・何を言っているんだ?
僕はついさっきこの建物を見つけた。ここに来たことは無いはずだ。外の景色だって知らない。
僕が混乱しているのに気付いていないのか。それとも気にしていないのか。男性は、あぁと呟く。
「やはり、取りに来られた方だったんですね。音が止んだので、もうそろそろだと思っていました。」
微笑んで、壁を振り返る。そこから、あの止まった時計を取り外し手渡してきた。
梱包したり、袋に入れたりすることなく、そのまま。
「どうぞ」
「あ、りがとうございます。」
白の文字盤に、丸みを帯びたフォントの一から十二の数字が、等間隔に配置されている。
長針や短針、秒針の先はアイスの棒のように丸まっている。
表面に指で触れると、はめ込まれた透明なカバーに指紋がついた。いけない。周囲を支える木目の綺麗な明るい色の
木材は、ひんやり冷えているはずなのに、何故か温かみを感じる。
・・・なつかしいと思った。
時計を腕の中に抱えると、これ以上ないくらいしっくりおさまった。
根拠も、預けた覚えもないけど、これは自分のものなんだろう。間違いなく。
今週はここまで
次週,完結です。